【私説・論説室から】 岩国にみる「アメとムチ」
土曜日なのに時折、戦闘機のエンジンを回すごう音が響いた。
沖合移設は米軍機の騒音と危険に悩まされていた住民が要望した。埋め立てに使う土 砂は岩国市内の
愛宕山を削り、跡地を住宅地として整備すれば、滑走路移設と宅地開発 が同時に進む一石二鳥のア
イデアだった。
ところが、宅地開発を進めた県と市は赤字が見込まれるとして国に買い取りを要請。 国は神奈川県の
厚木基地から移転する空母艦載機部隊の住宅用地として購入した。
艦載機移転と米軍住
宅建設に反対する田村順玄岩国市議は「最初から
愛宕山を米軍住 宅にする計画だったのではないか」と疑う。
艦載機移転に反対した当時の市長は、国が約束していた岩国市役所の建設
補助金負担 をほごにされ、受け入れ容認派の現市長に敗れた。国は現市長の再選前、市の要望通り 、全小中学校へのエアコン設置を発表、三選前には
岩国錦帯橋空港への増便を許可した 。
見え透いた「アメとムチ」。艦載機が移駐すれば、米軍機だけで百三十機近くとなり 、極東最大の基地とされる沖縄の嘉手納基地を上回る。これに既存の
自衛隊機約四十機 が加わる。沖合移設の効果を相殺するほどの騒音と危険にさらされるのではないだろう か。ムチを実感するのはそのときだ。 (半田滋
論説委員)